歌行灯

十四

帯も襟も唐縮緬とうちりめんじゃあるが、もみじのように美しい。結綿いいわたのふっくりしたのに、浅葱あさぎ鹿の子の絞高しぼだかな手柄を掛けた。やあ、三人あると云う、妾の一人か。おおん神の、お膝許ひざもとで沙汰の限りな! …惜しや、五十鈴川の星と澄んだその目許も、なまずひれで濁ろう、と可哀あわれに思う。

尽管身上穿的并不是最好的料子,但人真是美若红叶啊。她梳了一头丰满华美的结锦髻,还点缀了一个浅蓝色的花纹发饰。……我觉得她很是可怜,因为哪怕是比五十铃川里映着的星光还要澄澈的双眼,也要被脏脏的鲶鱼鳍玷污。


二十三

舞いも舞うた、謡いも謡う。はた雪叟が自得の秘曲に、桑名の海も、トトと大鼓おおかわの拍子を添え、川浪近くタタと鳴って、太鼓のひびきみぎわを打てば、多度山たどさんの霜の頂、月の御在所ヶたけの影、鎌ヶ嶽、かむりヶ嶽も冠着て、客座に並ぶ気勢けはいあり。

舞毕,曲终。随着雪叟收放自如的秘曲,就连桑名的大海也要轰轰地和着大鼓的鼓点;揖斐川的波浪也随着雪叟的鼓点拍打河岸,发出嗒嗒的声响;就连远处白雪皑皑的多度山、沐浴月光的御在所岳、镰岳山、冠山都像是座上嘉宾。


草迷宮

一夏はげしい暑さに、雲の峰も焼いたあられのように小さく焦げて、ぱちぱちと音がして、火の粉になってこぼれそうな日盛ひざかりに、これからいて出て人間になろうと思われる裸体はだかの男女が、入交いりまじりに波に浮んでいると、かっとただ金銀銅鉄、真白まっしろに溶けたおおぞらの、どこに亀裂ひびが入ったか、破鐘われがねのようなる声して、「泳ぐもの、帰れ。」と叫んだ。

那是一个天上下火的夏天。仿佛高耸天际的云层都要在正午太阳的炙烤下变成飞散的火星,噼噼啪啪地像冰雹一样砸向地面。仿佛马上就要浮起来变成人的男男女女的魂魄光着身子浮在海波之中,就听得连金银铜铁都能熔化的白炽的天空上传来一声破钟一样的喊声道:​“正在游泳的人,快回去!”


大崩壊おおくずれいわおはだは、春は紫に、夏は緑、秋くれないに、冬は黄に、藤を編み、つたまとい、鼓子花ひるがおも咲き、竜胆りんどうも咲き、尾花がなびけば月もす。いで、紺青こんじょうの波を蹈んで、水天の間に糸のごとき大島山に飛ばんず姿。巨匠がのみを施した、青銅の獅子ししおもかげあり。その美しき花の衣は、彼が威霊をたたえたる牡丹花ぼたんかかざりに似て、根に寄る潮の玉を砕くは、日に黄金こがね、月に白銀、あるいは怒り、あるいは殺す、き大自在の爪かと見ゆる。

大崩海角四季都会被不同的颜色包围,春天是紫色,夏天是绿色,秋天是红色,冬天是黄色。这里有紫藤缠绕,爬墙虎攀爬,牵牛花争相开放,芒草随风起舞,月光泼洒。看吧,大崩海角的岩石蓄势待发,仿佛就要踏着碧波,登上在水天之际的大岛山,那姿态如同能工巧匠雕琢的青铜狮子花一样。狮子身披花衣,仿若歌颂威武的雄狮的牡丹花饰。拍打着山麓的飞浪,在阳光下发出金色的光辉,在月光中发出银色的光辉,就像是自由奔放的利爪,时而发怒,时而无情地斩杀一切敌人。


十八

――うっすりとひさしを包む小家こいえの、紫のけぶりの中もめぐれば、低く裏山の根にかかった、一刷ひとはけ灰色のもやの間も通る。青田の高低たかひくふもと凸凹でいりに従うて、やわらかにのんどりした、この一巻ひとまきの布は、朝霞には白地の手拭てぬぐい、夕焼にはあかねの襟、たすきになり帯になり、はてすすきもすそになった。

它流过萦绕在小户人家屋檐下的紫烟,还流经后山山麓上萦绕的一抹抹灰色的云雾;它流过地势高高低低的青田,沿着凹凸不平的山麓,化作一卷柔软的棉布。朝霞现身的时候,它是一片雪白的手帕,等到晚霞映天的时候,它是一片橘黄的衣领,不时会化作系紧衣袖的带子,或者缠在腰部的衣带,有时又是轻薄的羽衣。


二十

浮世をとざしたような黒門のいしずえを、もやがさそうて、向うから押し拡がった、下闇したやみの草に踏みかかり、しげりの中へ吸い込まれる。

黑门的石基周围萦绕着雾霭,像要将这个世界和另一个世界分裂开来。森林脚下的黑暗,像是被雾霭吸引着一样,从黑门里流淌出来。


二十六

もろいの、何の、ぼろぼろと朽木のようにその満月が崩れると、葉末の露と一つになって、棟の勾配こうばいすべり落ちて、消えたはいが、ぽたりぽたりしずくがし出した。えりと言わず、肩と言わず、降りかかって来ました。

那个月亮脆得很,稀里哗啦地,像腐烂的树叶一样崩落下来,消失殆尽。紧接着,又滴滴答答地流起了汁液。那些汁液从屋顶流淌下来,沾得衣襟、肩膀上到处都是。


三十九

懐かしや、花の常夏とこなつ

霞川に影が流れた。

そのおもかげや、俤や――

紙を通して障子の彼方かなたに、ほの白いその俤が……どうやらいて見えるようで、固くなった耳の底で、天の高さ、地の厚さを、あらん限り、深く、はるかに、星の座も、竜宮のともしび同一おなじ遠さ、と思うあたり黄金こがねの鈴を振るごとく、ただ一声こえ、コロリン、と琴が響いた。

让人挂怀的牵牛花,

阴影流进霞川中,

那脸庞,那脸庞……

法师仿佛透过半纸,隔着拉门,看到拉门的另一边有一个朦朦胧胧有些发白的面庞。在耳朵深处,一个比天还要高,比地还要深,比星座的光辉、东海龙宫的灯火还要远,无穷遥远的地方,像是摇响了黄金的铃铛一样,丁零,只有一声,是一种琴声。


四十二

ト見ると、房々とあるつややかな黒髪を、耳許みみもと白くくしけずって、櫛巻くしまきにすなおに結んだ、顔を俯向うつむけに、撫肩なでがたの、細く袖を引合わせて、胸を抱いたが、衣紋えもん白く、空色の長襦袢ながじゅばんに、朱鷺色ときいろの無地のうすものかさねて、草の葉に露の玉と散った、浅緑の帯、薄き腰、弱々と糸の艶に光を帯びて、のあたり、肩のあたり、その明りに、朱鷺色が、浅葱あさぎが透き、はだの雪もかすかに透く。

眼看来人,她,一缕缕浓密光亮的黑发梳理整齐,盘在梳子上固定在脑后,耳边露出些许白色的头皮,双肩下垂,袖口紧紧地合在一起抱在胸前。从她白色的领口中可以看到里面穿了一件天蓝色的长摆内衣,上面罩了一件浅粉色的无花单衣。纤细的腰间,一条衣带如露水打湿的嫩草般发出柔和的光芒,照得胸前和肩膀下透着浅粉和蓝绿。衣服下幽幽地透着她雪白的肌肤。