本篇为补档。舞女「薫」友情出演:Ichigo。
「学生さんがたくさん泳ぎに来るね。」踊子が連れの女に言った。
「夏でしょう。」と、私がふり向くと、踊子はどぎまぎして、
「冬でも…。」と、小声で答えたように思われた。
「冬でも?」
踊子はやはり連れの女を見て笑った。
「冬でも泳げるんですか。」と、私はもう一度言うと、踊子は赤くなって、非常にまじめな顔をしながら軽くうなずいた。
“学生哥儿好多人都来游泳呢。”舞女对女伴说。
“是夏天吧?”我一回头,舞女猛然一惊。
“冬天也……”她似乎小声回应着。
“冬天也能游?”舞女又看看身旁的女伴,笑了。
“冬天也能游泳吗?”我又叮问了一下,舞女涨红了脸,非常认真地轻轻点了点头。
私たちを見つけ喜びで真裸のまま日の光の中に飛び出し、爪先きで背いっぱいに伸び上がるほどに子供なんだ。私は朗らかな喜びでことこと笑い続けた。頭がぬぐわれたように澄んで来た。微笑がいつまでもとまらなかった。
这孩子只是因为看到我们感到喜悦,就赤条条地跑到太阳底下,踮起脚尖儿,向上尽量挺直了脊背。我欢声朗朗,笑个不停。脑子里像水洗一般,清澄无比。我一直微笑着。
私の足もとの寝床で、踊子がまっかになりながら両の掌ではたと顔を押えてしまった。
彼女は中の娘と一つの床に寝ていた。昨夜の濃い化粧が残っていた。唇と眦の紅が少しにじんでいた。この情緒的な寝姿が私の胸を染めた。彼女はまぷしそうにくるりと寝返りして、掌で顔を隠したまま蒲団をすべり出ると、廊下にすわり、「昨晩はありがとうどざいました。」と、きれいなお辞儀をして、立ったままの私をまごつかせた。
我脚下的床铺上,舞女面孔绯红,一下子用两手捂住了脸。她和那位年幼的姑娘睡在一个被窝里。昨夜的浓妆还残留着,嘴唇和眼角渗着微红。她的极富风情的睡姿使我一阵激动。她似乎觉得晃眼,咕噜翻了个身,双手捂着脸滑出被子,坐到了走廊上。
“昨晚谢谢您啦!”她姿态优美地行了礼,弄得站着的我一下子慌了神。
めのうち彼女は遠くのほうから手を伸ばして石をおろしていたが、だんだんわれを忘れて一心に碁盤の上へおおいかぶさって来た。不自然なほど美しい黒髪が私の胸に触れそうになった。
起初,她从远处伸着手臂落子,渐渐忘情了,一心俯在棋盘上了。她那一头略显不太自然的乌黑的秀发触到我的胸间。
続きを読んでくれと私に直接言えないので、おふくろからたのんでほしいようなことを、踊子がしきりに言った。私は一つの期待を持って講談本を取り上げた。はたして踊子がするすると近寄って来た。私が読み出すと、彼女は私の肩にさわるほどに顔を寄せて真剣な表情をしながら、眼をきらきら輝かせて一心に私の額をみつめ、またたき一つしなかった。これは彼女が本を読んでもらう時の癖らしかった。
舞女不好直接叫我给她读,她一个劲儿央求婆子,想托她来请我。我怀着一种期待拿起这本故事书。舞女果然渐渐靠了过来。我一开始读,她就凑过脸来,几乎触到我的肩膀,带着认真的表情,一双乌亮的眼睛专心致志瞧着我的前额,一眨也不眨。这是她求人念书时候的习惯。
踊子が一人裾を高く掲げて、とっとっと私について来るのだった。一間ほどうしろを歩いて、その間隔を縮めようとも伸ばそうともしなかった。私が振り返って話しかけると、驚いたようにほほえみながら立ち止まって返事をする。踊子が話しかけた時に、追いつかせるつもりで待っていると、彼女はやはり足を止めてしまって、私が歩き出すまで歩かない。
舞女一个人高高撩起裙裾,蹭蹭蹭追上了我。她在我后头走着,离我两米远,这个间隔既不肯缩小也不肯拉长。我回头跟她说话,她不由一怔,微笑着站住回答我。舞女和我说话时,我等她追上来,可她仍然站住脚,我不走,她也不动。
私自身にも自分をいい人だとすなおに感じることができた。晴れ晴れと眼を上げて明るい山々を眺めた。瞼の裏がかすかに痛んだ。二十歳の私は自分の性質が孤児根性でゆがんでいるときびしい反省を重ね、その息苦しいゆううつに堪えきれないで伊豆の旅に出て来ているのだった。
我本人也切切实实地感到自己是个好人。我满心喜悦,抬眼眺望晴明的山峦,眼底里微微发疼。二十岁的我,曾经一再严格反省,自己的性格被“孤儿根性”扭曲了。我是不堪忍受满心的郁闷才来伊豆旅行的。所以,按照世上寻常的意思,自己被看作好人,实在感到了一种难言的欣慰。
踊子はちょこちょこ部屋へはいって来た宿の子供に銅貨をやっていた。私が甲州屋を出ようとすると、踊子が玄関に先回りしていて下駄をそろえてくれながら、
「活動につれて行って下さいね。」と、またひとり言のようにつぶやいた。
客栈的孩子摇摇晃晃走进来,舞女给了他一些铜钱。我正要走出甲州屋,舞女连忙抢先来到门口为我摆好木屐。
“领我去看电影呀。”她又自言自语地嘀咕着。
「なんだって。一人で連れて行ってもらったらいいじゃないか。」と、栄吉が話し込んだけれども、おふくろが承知しないらしかった。なぜ一人ではいけないのか、私は実に不思議だった。玄関を出ようとすると踊子は犬の頭をなでていた。私が言葉を掛けかねたほどによそよそしいふうだった。顔を上げて私を見る気力もなさそうだった。
“好啦,就让她一个人跟他去吧。”荣吉过去说情,那婆子就是不肯应。我真不明白,一个人怎么就不行呢?出了大门,我看到舞女正抚摸小狗的头,她显得有些冷淡,所以我也不便和她搭讪了。她似乎连抬头瞧我一眼的力气都没有了。
そばに行くまで彼女はじっとしていた。黙って頭を下げた。昨夜のままの化粧が私を一層感情的にした。眦(まなじり)の紅がおこっているかのような顔に幼いりりしさを与えていた。
栄吉が言った。
「ほかの者も来るのか。」
踊子は頭を振った。
「皆まだ寝ているのか。」
踊子はうなずいた。
栄吉が船の切符とはしけ券とを買いに行った間に、私はいろいろ話しかけて見たが、踊子は掘割が海に入るところをじっと見おろしたまま一言も言わなかった。私の言葉が終わらない先き終わらない先きに、何度となくこくりこくりうなずいて見せるだけだった。
我走到她近旁,她一动不动,默默低着头。昨夜的残妆更加使我动情,眼角的胭脂,似乎为怒气冲冲的面庞,平添一种幼稚而凛乎难犯的神情。荣吉问道:
“其他人还来吗?”
舞女摇摇头。
“她们还在睡觉吗?”
舞女点点头。
趁着荣吉去买船票和舢板票的时候,我问她许多话,她只是俯视着小河的入海口,一言不发。没等我说完,她就抢先连连点头。
はしけはひどく揺れた。踊子はやはり唇をきっと閉じたまま一方を見つめていた。私が縄梯子につかまろうとして振り返った時、さようならを言おうとしたが、それもよして、もう一ぺんただうなずいて見せた。はしけが帰って行った。栄吉はさっき私がやったばかりの鳥打帽をしきりに振っていた。ずっと遠ざかってから踊子が白いものを振り始めた。
舢板摇得很厉害,舞女依然紧闭双唇瞧着一边。我攀着软梯回头一看,舞女似乎想跟我说声“再见”,但最终依旧没有出声,对我又点了一下头。舢板开走了,荣吉手里不停地摇晃着我刚才送给他的便帽。直到走远了,舞女这才开始摆动着一件白色的东西。